<東横コラム>高齢化社会における心不全に欠かせない包括的心臓リハビリテーション【心臓病センター】
心臓が血液のポンプ機能としての役割が充分に果たせなくなった結果、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態が「心不全」です。虚血性心疾患や弁膜症、不整脈など、すべての心疾患は心臓の機能を低下させ、心不全になるリスクがあります。
息切れや倦怠感、むくみなどの症状によって活動や動作が低下し、日常生活に支障をきたすのが心不全の特徴です。日本では特に高齢の心不全が増加しており、しばしば「サルコペニア」が問題になります。サルコペニアとは、加齢による変化に加えて、疾病、活動量の低下、低栄養などが原因となって筋力低下や骨格筋量の減少、身体機能が低下する状態です。そもそも生活に支障をきたす症状がある心不全では、サルコペニアによって身体的なぜい弱性が生じ、精神的問題や社会的問題も加わると、心身が衰えて要介護のリスクが高まる「フレイル」という状態にも陥りやすくなります。
現在、日本の心不全患者数は120万人以上とされ、今後も増加が予想されています。しかし心不全の5年生存率はがんよりも低いことはあまり知られていません。予後不良で要介護リスクも高い疾患のため、医療体制の逼迫や、医療費や介護費増大など経済的な問題も懸念されています。
近年、新たな心不全の治療薬が登場しています。もともと糖尿病薬として開発されたSGLT2阻害薬や、新たに開発されたアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は、左心室の収縮力を表す左室駆出率が低下した心不全患者さんの生命予後を更に改善させることが示されました。これら薬剤は、日本でも2年前より心不全に対する処方が可能となりました。
ただし、心不全では患者さんの生活への復帰や再入院予防も重要です。そのために、薬物治療に加えて運動療法や食事・栄養指導、服薬管理指導、患者教育、心理的サポートなどが不可欠です。これを「包括的心臓リハビリテーション」と呼び、生命予後や再入院率の改善だけでなく、身体機能やADL、QOLといった患者立脚アウトカムをも改善させます。
そこで現在、東横病院心臓病センターでは、心不全のリスク段階の時点から患者さん自身にも予防に取り組んでもらう目的で、心不全に関する教育や指導を行う「心不全教育入院」に取り組んでいます。また、心不全で入院した患者さんは退院後も外来で心臓リハビリテーションを継続するとより効果的であることも分かっています。
当院では、外来患者さんに対しても運動療法や看護相談、栄養指導などのフォローアップを積極的に行っています。また、サルコペニアについても、筋力や栄養状態の改善には比較的時間を要するため、外来リハビリテーションで継続できる体制構築を検討しています。
当然、包括的心臓リハビリテーションは単一の職種だけでは難しく、多職種協働によって成り立ちます。当院は、心臓リハビリテーション指導士(医師4名、リハビリテーションスタッフ3名、看護師1名)、慢性心不全認定看護師(1名)、心不全療養指導士(看護師3名)など心不全や心臓リハビリテーションにかかわる資格を持つスタッフが多数在籍しています。心臓病センターでは、チーム一丸となって入院中から外来期にかけて継続して心臓リハビリテーションに取り組める強みがあります。心疾患に関して、いつでも心臓病センターのスタッフへご相談ください。